『聖城怪談録』上「逢坂清右衛門荻生村辺にて狐人につくを見し事」より

憑依の現場

 足軽の逢坂清右衛門が、あるとき、用事があって荻生村へ向かっていると、田を耕している男が、いきなり大声をあげた。
 どうしたのかと問うと、男は、
「また例の狐が、わしの体で休みやがる。だれか来てつかまえてくだされ」と叫ぶ。
 近くへ行って見ると、男は脇の下から狐の足を引き出し、しっかり握っていた。

 しばらくすったもんだしたあげく、結局は狐の足を取り放し、
「さてもさても憎いやつ。あれを見たまえ。悪狐が向こうの山へ逃げていきますぜ」
 たしかに狐が一匹、山の方へと飛ぶように走るのを、清右衛門はまのあたりに見た。
あやしい古典文学 No.1909