滝沢馬琴『燕石雑志』巻之一より

犬ころし

 ある書によれば、「犬ころし」という梨があって、その大きな実は周囲が四十センチ以上ある。北国に多く、奥州秋田のものは、他国に倍する大きさだ。
 犬が木の下にいるときに、梨の実が落ちて当たると、犬はたちどころに死ぬ。ゆえに「犬ころし」という。
 しかし、この名は聞こえがよくない。梨は食物だ。当たって殺すという意味の名は、不吉ではあるまいか。
あやしい古典文学 No.1911