岡村良通『寓意草』上巻より

命名の由来

 今村三太夫という人は、有職故実に詳しい人であった。
 長男が生まれたとき、「はとひこ」と名づけた。
「なんと、珍しい名ですね。往古の人のゆかしさを感じます。どんな由縁で付けられたのですか」
と問われて、
「産屋に鳩が飛び込んできましたので……」
と答えた。

 やがて次男が生まれた。このたびも優美な名だろうと思っていたら、「めまる」と付けたという。
「兄は鳩のことからと聞きます。さぞかし『めまる』も相応しいわけがあるのでしょう」
と問うと、
「この子を産むとき、妻がいきみ過ぎて目を回しましたので……」
と答えた。
 なんだか付け劣りしているように思えた。
あやしい古典文学 No.1912