『喪志編』より

爪の禁忌

 俗に「手足の爪の切ったのを、みだりに捨ててはならない」という。
 『日本書紀』によれば、素戔嗚尊(スサノオノミコト)がいろいろな悪事を働いたため、人々は罪の償いとして品々を出させ、何もかも出させ尽くしたうえで、髪の毛を抜き、手足の爪を剥いで償わせた。
 これがもとで、みだりに爪を捨てることを忌むのである。

 中国にも似たようなことがある。
 『太平広記』によれば、「鸚鵡(オウム)」というフクロウに似た鳥がいる。別名を「鬼車鳥」といい、昼間は身を隠し、夜に飛びあるいて人の爪を食うことを好む。鸚鵡が爪を食おうとして人家に近づき、屋根の上で鳴いたりすると、その家には凶事があるとされる。よって人々はこの鳥を忌み、切った爪は外に捨てず、屋内に埋める。
 思うに、夜に爪を切るのを忌むのは、これが起こりではあるまいか。
あやしい古典文学 No.1918