『今昔物語集』巻第二十九「多衰丸調伏丸二人盗人語」より

二人の盗賊

 昔、多衰丸・調伏丸という、二人の盗人があった。
 多衰丸は世間によく知られた盗人で、蔵破りの常習犯であり、たびたび捕らえられて獄につながれた。
 調伏丸は、どうしたわけか、誰にも顔や正体を知られぬ盗人であった。多衰丸と組んで盗みを働いたが、相方の多衰丸でさえ知らなかった。「調伏丸」という名前はよく聞くけれど、どういう者なのか結局分からないので、世間の人は皆たいそう不思議がった。

 調伏丸は、極めて賢い盗賊だったのだろう。
「多衰丸と組んで盗み歩きながら、自分だけ最後まで正体を知られなかったのは、ありえないほど珍しいことだ」
と、世の人は語り合ったとのことだ。
あやしい古典文学 No.1929