高古堂『新説百物語』巻之五「定より出てふたたび世に交はりし事」より

再び世に交わる

 大阪でのこと。

 ある人が大きな屋敷を買い取り、修繕工事などをしたうえで引き移った。
 住み始めてみると、敷地の地下の深みから、コン、コンと鉦の音がしてくる。不思議に思いながらその年は暮れたが、翌春になっても鉦の音がやむことはなかった。
 気になって仕方ないので、地面を掘らせてみると、数メートルの深さに、石の唐櫃が埋まっていた。
 櫃の蓋を開けたら、骨と皮と髪の毛ばかりの男が、鉦を叩いていた。何者なのか、なぜこんなところに埋まったのかなどと問うても、ものも言わない。
 とりあえず湯など与え、だんだんと白粥などを食べさせたが、日を経ても、自分の名も生まれた時代も思い出さず、ただ頭髪がいちだんと伸びただけだった。
 ひと月たち、ふた月たちするうち、しだいに肉もついて、体は普通の男のようになった。しかし当面なんの役にも立ちそうにないので、台所に置いて、火など焚かせることにした。
 四五年過ぎると、行住坐臥すべて並の者に劣らなくなった。すると男は屋敷の下女と密通し、やがて他国へ駆け落ちしてしまった。
あやしい古典文学 No.1935