『梅翁随筆』巻之四「出羽の影波の事」より

出羽の影波

 武蔵野にあるという「逃水(にげみず)」のことは、『夫木集』の源俊頼の歌にもある。

  東路に有といふなる逃水の 逃げのがれても世を過ぐすかな

 逃水は世に広く知られて目新しいものではないが、ずっと北の出羽あたりでも、同様のことがある。
 春・夏の晴天の日、野を行く人を遠くから見ると、野は大波が起こってしぶきの玉が飛び散るがごとくで、人はあたかも大海を越え行くかのようだ。近くに寄って見れば、ただ白砂ばかりの道で、いささかの水の気もない。
 土地の者はこれを、「影波」と言いならわしている。
あやしい古典文学 No.1941