松崎堯臣『窓のすさみ』第二より

威力抜群の火縄銃

 伊予の松山の城下に、夫婦と十三歳になる男子が暮らす家があった。
 ある日のこと、男子は母方の叔母の家へ行って、そのまま泊まるつもりであったが、急に気が変わって、帰ると言い出した。
 叔母が、
「もう日が暮れかけているじゃないか。一里あまりの道だから、途中で夜になる。下男はみな田へ出てまだ戻らないので、送らせることもできない。明朝帰ることにしてはどうかね」
と止めたが、男子は、
「急に帰りたくなったんだ。大丈夫、一人で帰れるよ」
と言って出かけ、家路を急いだ。

 宵過ぎるころに帰り着くと、なんだか様子がおかしい。家の中に灯火の光が満ち満ちて見える。
 窓から覗き込んだら、顔面を黒く塗った荒々しげな男が七八人、群れていた。路地から忍び入って裏の窓から見ると、母親はかまどの火を盛んに燃やして、飯を炊いているようだ。男子は小声で母親に呼びかけた。
「母さん、おれだよ」
「まあ、おまえ……。泊まるはずじゃなかったのかい」
「何か胸騒ぎがするんで帰ってきたけど、これはいったいどうしたんだ」
「じつは暮れ過ぎに盗人が十人余り入り込んで、親父どのを切り殺し、下男を残らず縛り上げた。そのうえ飯を炊いて出せと言うから、是非なく支度しているところだよ。今、盗人のうちの五六人は蔵へ行っている」
「そうか。では母さん、鉄砲に弾薬・火縄を添えて、見つからないように持ってきて。飯を出すときには、やつらが一列に並ぶように膳を据えておくれ」
 首尾よく鉄砲を渡し、一列に膳を据えると、盗人らは横並びで飯を食った。
 半ば食ったあたりで、男子は窓から鉄砲を差し入れ、よく狙って発砲した。一発の銃弾が次々に頭を貫通して、一挙に五人が撃ち倒され、残りの者は驚き騒いで逃走した。

 その後、五人の死骸が手掛かりとなって、逃げた盗賊も残らず捕縛され、刑罰に処せられた。
 男子は武士に取り立てられたそうだ。
あやしい古典文学 No.1948