長沢理永『土陽隠見記談』より

黒くなって死ぬ病

 土佐国幡多郡の奥猿野(おくましの)村に、奇妙な病気がある。村の者は、「テンギョウ」という名で呼んでいる。
 壮年期の人が、ふと肌に悪寒をおぼえて、そのまま病みつく。日ごとに骨節が痛み、十日足らずで全身が黒くなって死ぬ。五十過ぎまでこの病気に罹らなければ、もう罹ることはないという。

 この病気のせいで、次第に村民が少なくなった。
 公儀も捨て置けず、米や農具を給付するなどいろいろ援助している。また他村の者に命じて田地の世話をさせているが、それでも多くの土地が荒地となってしまった。
 溝一つ隔てただけの隣村には、この病気は一切ないのだから、人々が奥猿野村を忌み、移り住もうとしないのは、無理からぬことだ。
 近年、公儀は「猿野」の文字を「益野」と改めた。しかしながら、今もこの病気は絶えない。
あやしい古典文学 No.1956