神墨梅雪『尾張霊異記』初編下巻「猿投明神使の猿の奇禍」より

明神の使者

 寛政二年十一月、尾張国知多郡大井村でのこと。

 山神を祀る「山の子の祝い」で若者たちが集まっているところへ、大きな猿が一匹現れた。
「珍しい猿が来たぞ」
とあちらこちらと追い回し、若者の一人は犬を連れて来てけしかけた。
 猿は犬の背に飛び乗り、犬の顔面を引っ掻いて、目を潰した。しかし、もう一匹犬をけしかけて、二匹がかりで攻撃すると、たまらず木の上へ逃れた。
 若者たちは、長竿を用いて猿を木から突き落とした。茨の中へ隠れたのを叩き殺し、首を切り、胆を取った。皮を剥いだ者もいた。
 日が暮れると狐が来て、猿の死肉を食った。

 その夜、猿の首を切った者は、大熱を発してもがき苦しんた。
「我は、毎年のつとめで、伊良子嶋の明神へ向かう途中だった。何の咎もないものを、面白半分に殺したな」
と、亡霊が出て責めるのだった。
 猿は、猿投(さなげ)の明神の使者だった。
あやしい古典文学 No.1965