『因幡怪談集』「重都と言盲人の妻、蛇の子を産する事」より

座頭の妻

 元禄のころ、重都(しげのいち)という座頭がいた。
 音曲にすぐれ、そのため方々から声がかかり、暮らしは裕福だった。とにかく人気者で、昼も夜もどこぞの家へ呼ばれて行った。

 女房は三十ばかりの女で、いつも独りで留守居していた。
 いつしかその女のもとへ、夢ともなくうつつともなく、十六七歳ばかりの美しい男子が通い来るようになった。
 男子は女に添い伏して、さまざまに口説いた。初めは女も拒んだけれども、毎夜来て懇切に言い寄るうち、女も心が傾いて、やがて親密に情交する仲になった。
 しばらくは、隣家も気づかなかった。しかし後には、ひそひそささやく声が聞こえて、『亭主がいないのに、夜更けに話し声がするのは、誰ぞ密夫でもあるのか』と思うようになった。

 やがて女は懐妊して、月満たずに流産した。懐妊をことのほか喜んでいた夫の座頭は、がっくりと力を落とした。
 その流産というのが、小さい盥(たらい)に大ミミズのような白い蛇の子を、三つほど産んだのだという。内密にしていたのが世間に洩れて、もっぱらの噂となった。
 女は程なく死んだそうだ。
あやしい古典文学 No.1969