鈴木牧之『北越雪譜』初編巻之中「織婦の発狂」より

織婦の発狂

 ある村娘が、初めて上々の縮(ちぢみ)の注文を受けた。
 娘はたいそう喜び、代価の多寡は問題にせず、ひとえに腕前を発揮して評判を得ようと張りきった。そして、糸をつむぐ始めから人の手を借りず、丹精の日々を重ねて、みごとに織り上げた。
 その後、晒し屋に出した縮を母親が持ち帰ったと聞いて、娘は気がはやり、やりかけの仕事をうちやって包みを開いて見た。
 ところが、どこでどうなったのか、銭ほどの大きさの煤色の染みがある。
 娘は、
「お母さん、どうしよう……」
と、縮を顔に当てて泣き崩れ、そのまま発狂して、さまざまの妄語を口走りながら家の中を狂いまわった。
 両親は、娘の丹精した心の内を思いやって、泣きに泣いた。見る人々も憐れがって、みな袖を濡らしたという。

 友人某が語った話である。
あやしい古典文学 No.1972