松平定信『関の秋風』「鬼の棲家」より

鬼の棲家

 わが藩中の遠山猿平は、猟にかかわることにのみ携わる職分の者だ。顔が猿に似ているので、猿平と呼ばれるようになった。

 あるとき、筆者の知人が遠山の家へ行った。
 遠山は、鹿の皮を剥ぎながら、その肉を手づかみで喰っていた。口が血まみれだった。
 妻を呼んで、
「入れ物を持ってこい」
と言い、妻が持ってきたのを見れば、猿の頭、犬の手足がたくさん入っていた。
 鬼の棲家ともいうべき家だったそうだ。
あやしい古典文学 No.1977