阿部正信『駿国雑志』巻二十四下「御城内犬の奇」より

駿府城の犬

 『駿府雑談』によれば、昔、駿府城内にたくさんの犬が棲んでいて、それが東西に分かれて徒党を組んでいたそうだ。
 東の犬が西へ行くと、西の犬がたちまち喰い殺す。西の犬が東へ行った場合も、同様に喰い殺される。その殺意の強さは徹底していた。
 いっぽうで犬たちは人にはよく馴れ、詰所の人が交代しても、何年も飼った犬のように親しんだ。夜中に人に吠えかかるようなこともなかった。

 また、城の犬どうしは交尾をしなかった。
「牡牝が交わっているように見えても、牝の陰門に牡の陽根が入っていない。ほんとうに交接しているのを見た人はいない」
と、通詞清右衛門という者が語ったという。
あやしい古典文学 No.1979