平尾魯遷『谷の響』五之巻「貉讐を報んとす」より

狢の報復

 安政二年の九月、砂子瀬村の権八という者が、川原平村から一里ばかり行った鍋倉沢というところで貉(むじな)を見つけ、仕留めようと追い回したが、いちはやく狢は逃げ走って、ついに見失った。
 そこからまた一里ばかり下ると、柳の古木が数本あって、根元に柳茸が大量に生えていた。権八は喜んで、負うた籠に採れるだけ採ると、妻子の待つ我が家へ持ち帰った。
 翌朝、残りの茸も採ろうと思い立ち、かの場所へ行ったが、茸はなく、柳も見当たらなかった。不信を抱き、昨日の狢のことを思い出して、籠を振るうてみるに、二三枚落ちた茸は柳茸ではなく、まぎれもない毒茸だった。
「さては狢に謀られたか。妻子が食うては一大事……」
 慌てて駆け戻ったが、すでに茸を食ったあとで、七転八倒の苦しみ。近所の者が集まって、水よ、薬よ、と騒ぎ立てていた。
 このあと権八の妻子は、いろいろ手を尽くして、やっとのことで癒えたという。

 およそ狢のような獣は、ただでさえ人を悩ますものだから、胆力の弱い人間は、安易に手出ししてはならないのである。
あやしい古典文学 No.1980