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| 平尾魯遷『谷の響』五之巻「狼の力量」より |
狼は力持ち |
| 狼は、体に似合わぬ力持ちだ。 天保七年の二月、中代村の辨助という者が、飼い馬が死んだので皮を剥いで、あとの死骸を湯船川に捨てた。川までは、柴雪舟という橇に載せて、四百メートル近くの道のりを、男六人の力で引っ張っていった。 しかるに、どこからか一匹の狼が来て、男たちが去るのを見送ると、静かに死骸に近づき、馬の足を咥えて引きずった。さして苦労する様子もなく峰を越えて向こうの沢へと運んだが、その道のりは七百メートル前後あった。 また、その前年、同じ村の藤次郎という者の馬が死んで、その死骸を山に捨てておいたところ、狼が見つけて喰った。 やがて腰の肉と後脚だけになったとき、それを餌にして狼を獲ろうと、村の者四五人が相談し、適当な場所に運んで置いた。 はたして一匹の狼が来て、大きな餌を咥えて首をもたげ、悠々と歩み去ろうとする。そこで二挺の鉄砲を同時に撃ちかけると、一発は胸に当たり、もう一発は股を貫いた。 狼はさして弱る様子も見せず、餌を咥えたまま三十メートルほど走ったが、ついに倒れた。人々が得物を手に襲いかかると、狼は手負いながらも立ち上がり、喰らいつこうとするも、皆に滅多打ちにされて死んだ。 |
| あやしい古典文学 No.1981 |
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