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| 宮負貞雄『奇談雑史』巻二「子を喰ひし婦の事」より |
わが子を喰った人 |
| 信州のとある山里に、夫婦と五歳になる男子一人とで暮らす家があった。 ある日、夫は外へ出かけて、母子二人で家にいたとき、子があやまって小刀で指を切った。 血がほとばしり、泣き叫ぶ子を見て、母は傷口を舐めて血を止めようとしたはずみに、その血を飲んでしまった。 血の味はかぎりなく旨かった。我慢できず、その指を喰い尽くし、ほかの指も喰い、ついには片腕を喰って、子を喰い殺し、「これはもう夫に申し訳が立たない」と家を出て山に隠れ、とうとう行方知れずとなった。 五年後、その女は山から出てきて、村長の家に立ち寄った。 食物を乞い、わが子を喰い殺して山に隠れたいきさつを語ったが、女の顔は馬の面のようになり、体にはいちめんに毛が生えて獣のようになっていた。見る人がみな恐れて逃げるので、女はまた姿を消した。 村人たちは「このままにしておけば、また人を喰い殺すのではないか」と思い、捨て置きがたく、領主に訴え出た。 「鉄砲で撃ち殺せ」と命じられたので、山狩りして探したけれども、結局見つからなかったそうだ。 |
| あやしい古典文学 No.1983 |
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