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| 宮負貞雄『奇談雑史』巻二「網にかかりし人の事」より |
網にかかった人 |
| 文政のころ、筑紫の国の山里で、獣を獲ろうと谷間に網を張っておいたところ、夜のあいだに何かが掛かったらしく、鳴き声が聞こえた。 猟師らが行ってみると、人の形をした獣だった。 その獣は人語を聞き分け、語るものだった。そこで何者なのかと尋ねると、 「屋島・壇ノ浦の戦いに敗れ、山中に逃れた平家の武者の妻なのです。長い年月、山中をさまよい木の実を食べて命をつなぐうち、自然に体に毛が生え、こんな獣の姿になってしまいました」 と、古風で上品な言葉で物語りつつ、すすり泣いた。 源平の時代と言えば、文政からさかのぼること六百年以上もの昔である。猟師らは驚きながら、何の害をなすものでもないからと、絡みついた網を外して、放してやった。 |
| あやしい古典文学 No.1984 |
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