| HOME | 古典 MENU |
| 宮負貞雄『奇談雑史』巻一「敵を討ちし幽霊の事」より |
団扇と釘と槌と |
| 越後国のある村に、妻と妾を持つ裕福な男がいた。 その男が旅に出て家を留守にしたとき、日ごろから嫉妬を抱いていた妾が本妻を縊り殺し、病死したかのように装った。 殺されて幽霊となった本妻が、いまだこの世をあてどなくさ迷っていると、乞食の風体の汚らしい二人組に声をかけられた。 「おまえさん、どうしてそんなに迷い歩いているのかね」 「わたしは夫の留守に妾に縊り殺され、その無念さゆえ成仏できず、迷い歩いているのです」 「ならば、仇である妾を打ち殺してしまえばよいではないか」 「でも、わたしはか弱い女です。とても仇を討つことなどできません」 「そうでもないぞ。我らが仇をとる術を教えよう」 二人組は女に、破れ団扇一つ、五寸釘一本と小さい木槌一つを与え、 「おまえさんは今からすぐ家に帰れ。この団扇で妾をあおげば、たちまち妾は熱病に罹って大いに苦しみ倒れる。そのとき妾の頭にこの五寸釘を立てて槌で打ち込めば、即座に死ぬであろう」 と教えた。 女は三つの品を持って家に帰り、教えられたとおり妾をあおぐと、たちまち大熱を発して悶え苦しんだ。その頭に五寸釘を打ち込むと、なるほど妾はすぐ死んだ。 女は『わたしが縊り殺されたとき、妾に手を貸した隣の婆ァも殺してやろう』と思って、隣家へ行って同じようにすると、老婆もたちどころに死んだ。 それで『人を殺すのは容易なことで、面白いものだ』と知った女は、ほかの人々にも手をかけて、つぎつぎに殺した。 女の幽霊は、破れ団扇と釘と槌を携えて、あちらこちらと迷い歩くうち、たまたま菩提寺の僧に出会った。 「はて、あんたは某の女房で、少し前に死んだはずだが、……」 「はい、わたしは夫の留守に妾と隣家の老婆に縊り殺され、その悔しさから迷い歩いておりましたところ、道の途中にて二人組の者に声をかけられ、この品々を貰いました。これを用いて仇をとり、また面白さからほかの人を殺しております」 「面白半分に人を殺してはいけないよ。その品々は疫病神が用いる道具にちがいないから、拙僧に預けなさい。あんたのために厚く菩提を弔い、浄土に導いてあげよう」 僧は団扇と釘と槌を取り上げ、女に引導を授けた。それで、幽霊が迷い歩くことはもはやなくなった。 菩提寺の僧は、ちょっと試してみようと、破れ団扇で人をあおいだ。あおがれた人は、たちまちにして大熱を発して七転八倒の苦しみよう。 『なんと、とんでもない代物だ』と、僧はくだんの三品を箱に入れて固く封じた。 今もそれは、寺宝として秘蔵されている。 |
| あやしい古典文学 No.1986 |
| 座敷浪人の壺蔵 | あやしい古典の壺 |